こんにちは。
ブログでキッズプレイスではおもに園児さんたちの日々の様子をお伝えしていますが、それ以外にも子育てに役立ちそうな情報を記事にしております。
今日は生後1歳頃までの赤ちゃんについて注意すべき「乳児揺さぶり症候群」についての記事になります。
読者の皆さんは「乳児揺さぶり症候群」(SBS:Shaken Baby Syndrome)をご存知でしょうか。赤ちゃんを揺さぶると脳血管が切れて硬膜下出血などを起こして重篤な症状や後遺症が残ることがあります。そしてそれは思いもよらぬことから起きる場合があり、1歳未満の赤ちゃんを持つご両親は特に注意する必要があります。
ちなみにこの乳児揺さぶり症候群は保育士の試験に必ずと言ってもよいほど出題されるポイントで、保育士資格を持つ先生方は必ず知っています。だから保育士は赤ちゃんをあやす時もプロとして決して強く揺さぶったりはしません。
ヒトの脳は頭の中(頭蓋骨の中)に納まっていますが、頭蓋骨にしっかりと固定されているのではなく脳と頭蓋骨の間には隙間があり、赤ちゃんの場合はこの隙間が比較的広くあいています。少々乱暴な言い方かもしれませんが、赤ちゃんの脳は頭蓋骨の中に多少プカプカしながら浮いているようなイメージです。
なぜそうなっているかと言うと、出産時、赤ちゃんの頭蓋骨は産道を通過する時に柔軟に変形します(潰れます)。その際、脳まで潰れてしまわないようにするため広めの隙間が作られています。また産後から1歳ごろまでの急速な脳の成長にあわせて予め隙間があいている訳です。隙間といっても空気が入っている訳ではなく髄液などの液体で満たされています。
一方、脳と頭蓋骨の間の隙間には大小の血管があり、橋渡しされています(図をご覧ください)。専門的にはこの血管のことをMittenzweig静脈(大人の場合は架橋静脈)と言います。赤ちゃんの場合は脳と頭蓋骨の間の隙間が大きく開いているうえに、血管そのものが脆いため切れやすくなっています。
このような状態で赤ちゃんの体を揺さぶると、頭の中でプカプカしながら浮いている脳が揺さぶられ、橋渡しをしていた血管が切れて出血を起こします。ほとんどの場合、出血した血液は硬膜と言われる膜の直下に溜まって血の塊(これを血腫といいます)となります。このような状態を「硬膜下血腫」といいます。
硬膜下出血に陥った直後であれば、それまで大泣きしていた赤ちゃんが急に嘘のように泣き止んだり、視点が定まらなかったり、ミルクを戻したり、ゆざぶっても起きない昏睡状態となったり、痙攣を起したりすることがあります。出血量が激しい場合(血腫が大きい場合)は脳圧が急上昇して最悪死に至ります。命を取り留めたとしても後遺症が残る可能性もあります。出血して固まった血液(血腫)は容易には消えず脳を圧迫し続けることになります。脳圧が高まると、通常凹んでいる赤ちゃんの頭頂部の大泉門が外に張り出してきます。
赤ちゃんを揺さぶって脳出血を起こしても軽症であると気付かないこともあるのですが、固まっていた血液は徐々に溶けて液体状に変わります。つまり赤ちゃんの場合、時間が経つと硬膜下血腫が硬膜下水腫という状態に変わります。これらの状態はMRIなどの検査で分かるため、出血が起きると病理医学的な痕跡として「証拠」が残ることになります。
一方、赤ちゃんの頭の血管はいつ切れるのかといいますと、出産時に赤ちゃんが産道を過する時に切れることもあります。また出産後から1歳にかけてはちょっとした衝撃で切れやすく、強く揺さぶったり、軽く揺さぶり続けると切れることを知っておく必要があります。そしてこのような脳血管の損傷は赤ちゃんが未熟児の場合は余計に起こりやすく十分な注意が必要です。
1.乱暴に高い高いをした。
2.強く揺さぶった。逆さまにした。
3.背中を強く叩いた。
4.伝え歩きし始めた子が転んだ。
5.20分間ゆらゆらと揺さぶり続けた。
1?4の場合のように、ほとんどの場合は一瞬強い衝撃が加わったことによって血管が損傷するか断裂します。しかし5のように、弱い衝撃であっても長時間続くと、金属疲労と同じように徐々に血管に負荷が蓄積して、ついには損傷・断裂することがあります。1?4の場合はその原因が比較的明らかなのですが、5については「泣き止むようにあやしてあげただけ…」として見過ごされてしまう場合があります。
特に注意すべきは、赤ちゃんのご両親が共働きで、赤ちゃんが夜泣きをするようなケースです。このような場合、ご両親が夜中に焦って赤ちゃんを強くあやしたり、寝かせようとして長時間揺さぶり続けると思わぬ結果を招きかねないので注意が必要です。子育てに焦りが禁物な理由は時としてこのような事故を招くことがあるためです。もし共働きのご両親で赤ちゃんの夜泣きがひどい場合は勇気をもって育児休暇を取られることをお勧めします。
夜泣き対策についてはこのブログでも何回か取上げています(参照:赤ちゃんを安眠させるための5つの方法、赤ちゃんの夜泣き対策)。要点として、赤ちゃんは生まれる前のお母さんのおなかの中にいた(幸せだった)頃の状態を好みます。赤ちゃんが抱っこされたり抱きしめられたりして適度に体を圧迫されることや、狭い空間を好むことはお母さんのおなかの中を思い出して安心するからです。この点を踏まえてコツをつかむと赤ちゃんを上手にあやしたり寝かせつけることができるようになります。
以上、子育ての参考になれば幸いです。