久しぶりにブログを更新します。実は、以前にもインフルエンザについてのブログ記事を書いていますので、ブログ(インフルエンザ予防法)を更新すべきかどうか、3日間ほど迷っていました。しかし、次のような悲劇を繰り返さない為にも、少しでも多くの方に身近に出来るインフルエンザの予防法を知ってほしいと思いました。
私は次の記事を見て、同じ子(娘)を持つ親として涙が止まりませんでした。ご両親の悲痛な思いが綴られています。
「笑顔、増やしてくれるよね」臓器提供女児の両親が手紙
出典:朝日新聞デジタル 2月25日(木)16時47分配信
東海地方の病院で脳死と判定され、臓器提供をした6歳未満の女児の家族が25日、日本臓器移植ネットワークを通じて、思いをつづった手紙を公表した。女児はインフルエンザ脳症で入院し、提供は家族や親族13人の総意で決めたという。全文は以下のとおり。
Aちゃんが体調を崩してからお父さんとお母さん辛(つら)くてね。
毎日毎日神様にお願いしました。目に見える物全てに、お山に行ってお願いして、川が見えればお願いして、海に向かっても……いろいろ神社なんかも夜中に行ってお願いしました。最後には落ちている石ころさんたちにもお願いしたんだよ。
でもね、どうしてもAちゃんとお父さんを入れ替えることはできないんだって。もう目を覚ますことはできないんだって。もう長くは一緒にいられないんだって。
お父さんとお母さんは辛くて辛くて、寂しくて寂しくて泣いてばかりいたけれど、そんな時に先生からの説明でAちゃんが今のお父さんやお母さんみたいに涙にくれて生きる希望を失っている人の、臓器提供を受けなければ生きていけない人の希望になれることを知りました。
どうだろう?Aちゃんはどう思う?いやかな?
お父さんやお母さんは悩んだ末、Aちゃんの臓器を困っている人に提供することを決めました。もしいやだったらゴメンね。
お父さんもお母さんも臓器を必要としている人がたくさんいて、その人を見守る人たちがどんなにか辛く苦しい思いをしているか知っています。もしその人たちにAちゃんが役に立てるなら、それは素晴らしいことだと思ったんだよ。
一人でも人の命を救う。心を救う。ってすごく難しいことでお父さんもできるかわからない。だけど、とても素晴らしく、尊いことなんだよ。
もしAちゃんが人を救うことができたり、その周りの皆さんの希望になれるとしたら、そんなにも素晴らしいことはないと思ったの。こんなにも誇らしいことはないと思ったの。Aちゃんが生きた証(あかし)じゃないかって思ったの。今のお父さん、お母さんみたいに苦しんでいる人が一人でも笑顔になってくれればどんなに素晴らしいだろうと思ったの。
そして、その笑顔はお父さんやお母さんの生きる勇気にもなるんだよ。
いつも周りのみんなを笑顔にしてくれたAちゃんだから、きっとまた世界の笑顔を増やしてくれるよね?
命は繫(つな)ぐもの。お父さんとお母さんがAちゃんに繫いだようにAちゃんも困っている人に命をつないでくれるかな?
願わくば、お父さんとお母さんがAちゃんにそうしたように、AちゃんもAちゃんが繫いだその命にありったけの愛を天国から注いでくれると嬉(うれ)しいな。
お父さんより
◇
お母さんを
もう一度
抱きしめて
そして
笑顔を見せて
お母さんより
朝日新聞社
元気だった我が子を失ったご両親の喪失感は、とても筆舌に尽くしがたいと思います。
このような悲劇を繰り返さない為にも、ちょっとした工夫でインフルエンザ感染やそれに伴うインフルエンザ脳症を未然に防ぐことができることを、全国の子を持つ親御さんに知ってほしいと思い、ブログを更新しました。
唐突で申し訳ありませんが、読者のみなさん伝えたいことは、インフルエンザを予防するためには、葛根湯などを、少なくとも冬の間だけでも「自宅に常備して活用して欲しい」と言うことです。
以下、その理由の説明です。
葛根湯はタミフルやリレンザと言った抗インフルエンザ薬と同じくらいインフルエンザに効くことが知られています(臨床研究で明らかにされており、論文発表や多くの学会で報告されています)。これらの薬(葛根湯、タミフル、リレンザ等)は、何れもインフルエンザウイルスの増殖を抑えることを以前キッズプレイスのブログでも何度か紹介しています。
しかし、これらの薬が効くのは、インフルエンザウイルスが体内で増殖を始める初期段階だけであり、ウイルスが増えてしまった後では、もうどの薬(葛根湯、タミフル、リレンザ等)も効きません。
タミフルやリレンザと言った抗インフルエンザ薬は医師の処方箋が必要であり、病院ではまずインフルエンザ測定キットを用いて患者さんがインフルエンザウイルスに陽性であること、つまりインフルエンザウイルスの存在を確認してからでなければ、タミフルやリレンザなどを処方しません(一般的に、西洋医学では原因があって初めてそれに対する薬を処方するためです)。
ここで問題なのは、インフルエンザ測定キットで陽性反応が出るということは、既に体内でインフルエンザウイルスが一定量以上増殖していることを意味し、この段階で薬を服用しても、あまり効果は期待できません。つまり、効くはずの薬も投与時期が遅れれば意味を成しません。
最も留意すべきことは、インフルエンザに感染した場合、親が子供の発熱(微熱の段階では子供は元気なので、ぐったりして様子がおかしいと思った時にはかなりの発熱のことが多い)に気づいて病院に連れて行く時点では、既にインフルエンザウイルスが体内でかなり増殖しており、手遅れになる確率が高いと言うことです。なぜなら、ウイルス増殖が起きたからこそ、子供の体がウイルスを排除しようとして、生体防御反応の一環として体温を上げている(発熱している)からです。
つまり、インフルエンザについては、病院に連れて行く以前に、何らかの打てる手があるのなら、試みる価値があると言うことです。
では、親としてはどうするか。
私は次のことを強くお勧めいたします。
- 自宅に葛根湯などを常備しておいてください。葛根湯はドラックストアや漢方薬局で誰でも購入できる、安全性の高い風邪薬(後述)です。錠剤タイプの葛根湯は錠剤が喉に引っかかりやすいため、5才以上でないと飲めませんから、できればエキス顆粒剤、もしくは液体タイプの葛根湯がお勧めです。これらは長いものでは5年間保存でき、お子さんだけでなく大人のインフルエンザの予防法にも有効です。
- そして、冬場にお子さんが鼻水を出していたり、食欲が少し落ちていたり、微熱があったり、少しきつそうにしていたら、インフルエンザであってもなくてもすぐに葛根湯を飲ませてあげて下さい。
もしお子さんがインフルエンザに感染していたら、葛根湯の服用が早ければ早い程、その後、大きな効果をもたらします。ポイントは以下にお子さんの変化を見抜いて早く投与できるかどうかにかかっています。小さいお子さんほど、微熱でも見かけ上、全く元気に見えるため変化を見逃しやすいからです。インフルエンザの時期だけでも、定期的に体温測定を行うか、小まめにお子さんの額に手を当てて体温の変化を察知するなどの工夫が望まれます。
インフルエンザに罹った場合ですが、私の経験では、5才未満のお子さん場合、40℃近い熱が3?7日間も続くことは無くなります。発熱期間はどれだけ早く服用できたかにより大きく変わり、服薬が早ければ発熱がみられない場合もあります。また、例え1日目?2日目にかけて40℃近く発熱しても、早めに服用できていれば、それ以降は下がり始めます。
同様に10才以下のお子さんの場合、発熱しても5才未満のお子さんに比べればより早い回復が期待できます。
ちなみに大人(18才以上くらい)の場合は、葛根湯(大人の場合は麻黄湯がお勧めの場合もあります)の服用が早ければ、たとえインフルエンザウイルスに感染しても一晩寝れば翌日は普通に会社や学校に行けるはずです。
以上のように、葛根湯を服用すると年齢が高い程(ご年配の方は除く)回復が早い傾向があるようです。
そもそも、通常のインフルエンザは風邪の一種ですから、本来は、数日寝ていれば治る病気です。
しかしインフルエンザが恐ろしいのは、何もしなければ40℃近い熱が3?7日間ほど続き、その間に脳神経細胞が破壊されることです。これをインフルエンザ脳症と言います(5才くらいまでのお子さんの場合、A型インフルエンザで起きる急性壊死性脳症などがあります)。小さいお子さんの場合、40℃近い発熱を起こすと熱痙攣が起きることがありますが、さらに熱性譫妄(ねっせいせんもう)と言って幻視、幻覚、異常行動を伴うようになると大変危険です。
私の場合、娘が1才後半くらいの頃から少しでも様子がおかしいと思われた時に、間髪入れず葛根湯を飲ませていました。そのお蔭で娘は幼稚園や小学校を病欠したことがありません(幼稚園も小学校もほぼ皆勤で、一日だけキャンプでずる休みしたくらいです)。
葛根湯は漢方ですが、漢方には「未病」と言う考え方があります。未病とは病気になる前段階の体の微妙な変化の段階を言いますが、漢方薬は未病にも使います。
つまり、お子さんであっても大人であっても、インフルエンザであるかどうかわからない体の微妙な変化が見られた段階で葛根湯を予防的に服用することは、東洋医学的には正しい用法ではないかと私は考えております。
実際、インフルエンザウイルスは潜伏期が短く、ウイルス増殖が盛んになる前に出来るだけ早く服用することが、重症化を避けるカギとなります。少し大げさかも知れませんが、一刻を争うと言っても言い過ぎではないかも知れません*。病院はその後で大丈夫です(病院で診察待ちしている時間ももったいないからです)。
*インフルエンザウイルスの場合、のどや鼻の粘膜に付着後、約20分くらいで細胞内に入り込みます。また、感染成立後の増殖速度も速く、潜伏期間が短いため大流行しやすいと言われています。
余談となりますが、私は、この漢方の「未病」の考え方を生かして、小さなお子さんのインフルエンザで予防に葛根湯の利用をキッズプレイスの保育園の園児さんの親御さんに推奨してきました。それだけでなく、薬局では受験生に葛根湯の服用を勧めています。受験生は冬の寒い時期に勉強をしなければなりませんが、体が冷えたりインフルエンザに罹りやすく、受験日直前に風邪をひくなどの失敗につながりかねません。
葛根湯には「しょうが湯」の成分(生姜、葛、大棗)が全て含まれているため、服用すると体が温まります。ちなみに、葛根湯は「肩こり」にも適用があるため、受験勉強で体が冷えて肩こりするような場合でも応用できます。さらに葛根湯に含まれる麻黄(まおう)と言う生薬(字が似ているため、大麻や麻薬と勘違いする人が多いのですが、全く似て非なるものです)は、少しだけ頭をスッキリさせてくれると共にリビドー(性衝動)を抑えてくれます。このため受験に専念すべき受験生には、胃を荒らすことなくインフルエンザを予防すると共に、肩こり防止、体を温めること、頭をスッキリさせること、リビドー抑制、と一石五鳥かも知れません。
読者の皆さんにお知らせしたいことが尽きないのですが、分からないことがあれば、この記事にコメントを頂くか、直接ご連絡頂ければお答えいたします。以下にはその他の要点をまとめておきます。
- タミフルやリレンザなどの抗インフルエンザ薬には解熱作用が無いものがあります。このため病院では抗インフルエンザ薬に解熱鎮痛剤が同時に処方されることがあります。また解熱鎮痛剤は副作用で胃腸が荒れることから、予防薬として胃薬が同時に処方されることが多いです。つまり抗インフルエンザ薬は3点セットで処方されることが多いと言えます。
- 一方、葛根湯は抗インフルエンザ薬同様、インフルエンザの増殖を抑えますが、それ自体に解熱鎮痛作用があります。また胃腸を荒らすことはありません。このため葛根湯の場合は1剤で済みます。
- さらに、葛根湯は安全域が広いお薬です。葛根湯の「煎じ薬」の場合、1才未満の乳児には、やむを得ない場合のほかは服用させないことになっていますが、3か月以上であれば服用可能となっています(薬局製剤業務指針、添付文書例)。なお、錠剤およびエキス顆粒剤の場合は、メーカーにより微妙に適応可能年齢が異なります(上記は煎じ薬の例です)。
- 風邪のウイルスは200?300種類あると言われており、インフルエンザウイルスはその1つです。葛根湯はインフルエンザだけでなく風邪症状全般に適用がありますから、インフルエンザ以外の風邪、例えば夏風邪などにも有効です。ちなみに私の経験では、服用のタイミングが早ければ、ノロウイルスなどによる嘔吐下痢症状もある程度緩和してくれるようです。
- 他方、葛根湯にも欠点があります。お子さんにとっては味が不味い点です。この点は大人も同様かも知れません。そうであるからこそ、小さいころから飲む癖をつけておくと、後々、漢方薬という選択肢も選べる事になり、西洋薬に加えて薬の選択肢が増え、将来、病気の時に得することになります。私の娘の場合は、インフルエンザ予防に(1才後半頃から)葛根湯を与えていましたが、無理に飲ませることはせず、後でご褒美(娘の好物のアイスやイチゴ)を与えるようにしていました。
- また繰り返しとなりますが、葛根湯は万能薬ではありません。服用のタイミングが遅れればインフルエンザに対して効果を発揮することはありません。
- 葛根湯を服用しても病院に行かなくて大丈夫な訳ではありません。インフルエンザは脳炎だけでなく肺炎も併発しやすいので、特にお子さんが小さい場合は小児科受診を心掛けられてください。病院ではお医者さんに葛根湯を服用したことを伝えてください。
- インフルエンザに有効な漢方薬としては、麻黄湯が有名であり、インフルエンザに対しては葛根湯より効果的と考えられます。しかし、麻黄湯は葛根湯より体力がある方に適しており、葛根湯に比べて麻黄湯は甘味が少なく味が苦いため、このブログ記事ではお子さんが飲みやすいと言う観点から葛根湯を取り上げました。同様に、お子さん(およびご年配者)の場合、麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)などの処方もインフルエンザに有効ですが、こちらはさらに味が苦くなります。処方の違いについて気になる方は、漢方に詳しい医師や薬剤師にご相談されてください。
何度も繰り返しとなりますが、小さいお子さんがいる家族では、インフルエンザを予防するためにも、葛根湯などを常備されてることをお勧めいたします。そしてインフルエンザの季節になり、悪寒、体のだるさ、節々の痛み、咳、鼻水、微熱、お子さんであれば少し元気がなさそうな様子を感じたら、間髪入れずに服用されることをお勧します。
また、不幸にもお子さんがインフルエンザに罹って発熱した場合、手短にある大人用の解熱鎮痛剤を飲ませてはいけません(以前の記事を参照ください)。ライ症候群のような重篤な副作用が起きる危険性があります。子供用の解熱鎮痛剤をご用意ください。
冒頭のご両親に深く同情致しますと共に、亡くなられたお子さんのご冥福をお祈りさせて頂きます。この記事が小さなお子さんのインフルエンザ脳症の予防に少しでも役立つことができれば幸いです。
文責:薬煎院薬局 薬剤師 井手
補足:この記事をお読みいただきましてありがとうございます。時折ご質問を頂くため、市販で買える葛根湯や麻黄湯をご紹介させていただきます。