以前、このブログにて、虫歯がインフルエンザや伝染病などと同じ「感染症」であることを紹介しました。子供の虫歯は成長するに従って自然と虫歯になっていくのではなく、赤ちゃんの時に大人や兄弟から虫歯菌をもらう(感染する)ことによりおこります(虫歯が発症します)。
虫歯は、赤ちゃんの口の中の細菌の分布状態(専門的には口腔フローラと言います)が決まる2歳ころまでの間に、外部から虫歯菌が感染することによって起こります。
赤ちゃんがお母さんのおなかの中にいる時、赤ちゃんの口の中は無菌状態ですが、お母さんの産道を通りオッパイを吸ったときから、赤ちゃんの口の中に細菌(乳酸菌など)が住みつくことになります。
ヒトの皮膚や口の中、また腸などには、様々な種類の細菌が住みついていて、これらを常在細菌と言います。つまりヒトは様々な種類の細菌と共存しており、常に無菌状態でいるわけではありません。
口の中の細菌の種類や数の割合は生まれてから1歳半から2歳ぐらいの間でほぼ決まってしまい、それ以降は歳をとっても急に変わることはありません。生まれてから口の中の細菌の種類や数の分布が決定する2歳ぐらいまでに虫歯菌が口の中に大量に入ってこなければ、それ以降に例え虫歯菌が入ってきても、住みつくことは出来ず感染が成立しません。最初から住みついていない限り、突然入ってきたよそ者(虫歯菌)はそう簡単に住みつくことができないという訳です。
このため、赤ちゃんが生まれたら、2歳ころまで食事などの口移しはしない方が良いかもしれません(少なくとも注意が必要かもしれませんね)。2歳を過ぎれは例え虫歯の人から口移しをされても虫歯菌が感染して虫歯になることはありませんので、出来ればそれまで我慢された方が良いと思われます。
ここまでは以前のブログ記事のおさらいですが、もう1つ5歳くらいまでに気をつけないといけないことがあります。それはピロリ菌の感染です。
先日NHKの番組(ためしてガッテン)でも放送されていたので、ご覧になった方も多いと思いますが、ピロリ菌は将来、胃潰瘍や胃がんの原因となる細菌で注意が必要です。ピロリ菌は酸性の強い胃の中に住むことが出来る特殊な細菌で、正式名称は「ヘリコバクター・ピロリ」といいます。
ピロリ菌は誰の胃の中にもいるわけではなく、特に50才以上の方に多いことが統計学上分っており(約7割)、ヒトからヒト、動物からヒトへと感染します。以前は病院で胃カメラを撮影した時に、胃カメラ本体の消毒が不十分であったため、病院を中心として感染が広がったことがありますが、今では消毒が徹底されているためこのようなことはありません。
最近の若い人では感染率が少ないのですが、それでも完全にゼロではありません。詳しい感染経路はいまだ不明ですが、考えられる感染経路として、生まれてから5歳ぐらいまでの間に保菌者(ピロリ菌を持つ人)から食事の口移しなどで感染する可能性が指摘されています。その他には、動物との接触(唾液や糞を介した感染)などが考えられます。私は犬好きですが、やたら口を舐めたがるワンちゃんには少々注意が必要かも知れません。
虫歯菌を除菌することは非常に厄介ですが、ピロリ菌は抗生物質でほぼ除菌することか出来ます。その意味では虫歯菌よりピロリ菌の方がまだマシなのかも知れませんが、感染を知らずにいると将来胃潰瘍や胃がんとなる可能性もあり、留意する必要がありそうです。
赤ちゃんへの離乳食の口移しや小さいお子さんへの口移しは、親から子への愛情表現でもあるため、一概に否定することはできませんが、子供たちの側から考えると口移しによる愛情表現より他のスキンシップの方が嬉しいかもしれませんね。
以上、今後の子育ての参考にして頂ければ幸いです。
参考情報:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』ヘリコバクター・ピロリ